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旅館業の直通階段は「3階建てなら2本」「200㎡未満なら1本」と一律には決まりません。ホテル・旅館用途では、その階の宿泊室面積が一定規模を超える場合などに、2以上の直通階段が必要です。
さらに、階段が2本あっても、宿泊室から階段までの歩行距離や、2方向に分かれるまでの共通経路が長ければ、二方向避難として十分とは限りません。本数、配置、区画、階段の構造を一つの避難計画として確認する必要があります。
この記事では、旅館・ホテル・簡易宿所で直通階段が2以上必要になる主な条件、歩行距離、避難階段・特別避難階段、自治体条例の確認ポイントを解説します。階段の幅・蹴上・踏面は別記事で確認してください。
直通階段は避難階又は地上まで連続して通じる階段
直通階段は、避難階以外の階から避難階又は地上まで、途中で途切れずに通じる避難経路上の階段です。ここでいう「直通」は、形が一直線という意味ではありません。
| 用語 | 意味・確認すること |
|---|---|
| 直階段 | 途中で方向を変えず、まっすぐ上り下りする形状 |
| 回り階段 | 方向を変える部分が三角形・扇形の段になっている形状 |
| 直通階段 | 避難階又は地上まで連続して通じる、避難経路上の階段 |
| 避難階段 | 階段室の区画、開口部、防火設備などについて施行令123条の構造を満たす階段 |
| 特別避難階段 | 付室やバルコニーなどを介し、煙の侵入防止を強化した階段 |
折返し階段や回り階段でも、法令上の条件を満たして避難階まで連続していれば、直通階段になる可能性があります。反対に、形がまっすぐでも、途中で別の用途の室内を通らなければ地上へ出られない計画などは、直通性の確認が必要です。
ホテル・旅館で2以上の直通階段が必要になる主な条件
建築基準法施行令121条では、避難階以外の階について、用途、階数、居室・宿泊室の面積等に応じて、2以上の直通階段を求めています。
その階の宿泊室面積が100㎡を超える場合が原則
ホテル・旅館用途では、原則として、その階にある宿泊室の床面積合計が100㎡を超えると、2以上の直通階段が必要です。ここで見るのは建物全体の延べ面積ではなく、判定する階の宿泊室面積です。
主要構造部が準耐火構造であるか、不燃材料で造られている建築物では、100㎡を200㎡へ読み替える規定があります。構造は募集図面や見た目だけで決めず、確認済証、検査済証、設計図書等で確認します。
| 主な判定 | 面積の対象 | 基準 |
|---|---|---|
| 2以上の直通階段 | その階の宿泊室の床面積合計 | 原則100㎡を超える場合 |
| 一定の構造による読み替え | その階の宿泊室の床面積合計 | 主要構造部が準耐火構造又は不燃材料の場合は200㎡を超える場合 |
| 用途変更の建築確認手続 | ホテル・旅館へ用途変更する部分の床面積合計 | 別の200㎡基準 |
| 階段の幅・蹴上・踏面 | 直上階の居室面積、建物の延べ面積等 | 階段寸法の記事で別に判断 |
6階以上など面積以外の条件でも必要になる
6階以上の階に居室を設ける場合など、宿泊室面積とは別の条件で2以上の直通階段が必要になることがあります。対象となる階の用途、居室、階数、構造を確認してください。
小規模建築物の適用除外は条件付き
階数3以下・延べ面積200㎡未満の建築物などには、一定の条件を満たす場合に2以上の直通階段の規定を適用しない取扱いがあります。ただし、用途、主要構造部、階段の区画、戸の仕様など複数の条件があります。
「3階建てだから必ず2本必要」「3階以下・延べ面積200㎡未満だから必ず1本でよい」のどちらも正確ではありません。小規模建築物の適用除外を含め、建築士が図面と現況を確認してください。
階段が2本あっても歩行距離と共通経路を確認する

直通階段は、各居室から法令で定める歩行距離内に配置する必要があります。階段だけを図面上で数えるのではなく、宿泊室の各部分から廊下等を通って階段に至る実際の経路を確認します。
歩行距離は用途・構造・内装等で変わる
施行令120条の歩行距離は、居室の種類、建物の主要構造部、内装などで上限が変わります。したがって、すべての旅館業物件を一つの距離で判定することはできません。
平面図上では、壁や扉、廊下の曲がりを含む通常の歩行経路を確認します。図面に直線を引いた最短距離や、部屋の入口から階段までの距離だけで判定しないでください。
2方向に分かれるまでの重複区間には上限がある
2以上の直通階段が必要な場合、居室から各階段へ至る経路が途中まで共通していることがあります。施行令121条3項では、その共通の重複区間を、施行令120条の歩行距離の数値の2分の1以下とすることが原則です。
階段が2本あっても、長い廊下の先で初めて左右へ分かれる計画では、火災時に共通部分が使えなくなると両方の階段へ行けない可能性があります。避難上有効なバルコニーや屋外通路等へ重複区間を通らず避難できる場合には例外がありますが、個別の構造・配置確認が必要です。
直通階段の図面確認では、各宿泊室から1本目・2本目の階段までの経路を別々の色で描きます。経路が重なる区間、扉、行き止まり、共用部を可視化すると、建築士との確認が進めやすくなります。
5階以上・地下2階以下では避難階段を検討する
直通階段のうち、5階以上の階又は地下2階以下の階へ通じるものは、原則として避難階段又は特別避難階段にする必要があります。15階以上又は地下3階以下へ通じるものは、原則として特別避難階段が必要です。
ただし、主要構造部、対象階の床面積、防火区画などによる例外があります。階数だけで結論は出せません。既存階段を避難階段仕様へ変更する場合、階段の段板だけでなく、周囲の壁、扉、開口部、排煙などへ工事が広がる可能性があります。
竪穴区画と直通階段は同時に設計する
階段は上下階へ火や煙が広がる経路にもなるため、竪穴区画の検討が必要になることがあります。ただし、区画のために扉を追加すれば終わりではありません。扉の位置や仕様が、直通階段としての経路、踊場、通行幅、避難方向などへ影響する場合があります。
弊所が関与した案件では、階段まわりの竪穴区画を成立させるため、階段へ扉を設ける案が検討されました。しかし、直通階段としての連続性や避難経路の条件とあわせて確認すると、当初予定した扉の位置・構成では計画を進められず、設計変更が必要になりました。
その結果、区画だけを前提に進めた場合よりも工事範囲が広がり、費用も増えました。着工前に、竪穴区画、直通性、踊場、通行幅、扉の仕様を一体で検討する必要があります。
これは個別の建物条件と行政・建築士の確認にもとづく一事例です。階段へ扉を設けることが一律に禁止されるという意味ではありません。必要な区画と扉の位置・仕様は、建物の構造、用途、階段計画により異なります。
らせん階段は全国一律禁止ではない
らせん階段が直通階段として使えるかは、全国一律に「不可」と決まっているわけではありません。踏面・幅、直通性、自治体条例を確認します。
東京都建築安全条例10条の7は、特殊建築物に設ける直通階段を原則としてらせん階段にできないと定めています。一方、避難階の直上階だけに通じるものや、踏面の最小寸法が施行令23条1項に適合するものなど、条例上の例外もあります。
これは東京都の条例です。東京都以外の物件へ同じ結論をそのまま当てはめず、所在地の建築条例と所管行政庁の取扱いを確認してください。
階段の幅・蹴上・踏面は別に確認する
直通階段の本数と配置を満たしても、その階段自体の幅、蹴上、踏面、踊場、手すりが基準に適合している必要があります。
一般的な屋内階段の寸法、告示による19cm・15cm基準、回り階段の30cm位置での測り方は、次の記事で詳しく解説します。
契約前に直通階段を確認する順番
建物のどの階・部屋を宿泊室として使うかを図面に示します。
建物全体や用途変更部分の面積と混同せず、判定する階ごとに確認します。
100㎡を200㎡へ読み替えられる構造か、確認済証・検査済証・設計図書等で確認します。
各宿泊室から各階段までの通常の歩行経路、扉、行き止まり、共通部分を図面に示します。
階数、階段室の壁・扉・開口部、らせん階段等の追加規制を確認します。
階段増設や区画改修の可否、費用、工程を把握してから契約・工事へ進みます。
- 各階の宿泊室面積を階ごとに集計した
- 主要構造部を確認できる資料がある
- 各宿泊室から各直通階段までの歩行経路を図面に示した
- 2方向に分かれるまでの共通区間を確認した
- 階段室の壁、扉、開口部、防火設備を確認した
- 所在地の建築条例を確認した
旅館業の直通階段でよくある質問
階段が1本しかない3階建てでも旅館業にできますか?
可能性はありますが、3階建てという情報だけでは判断できません。各階の宿泊室面積、主要構造部、階段区画、歩行距離、自治体条例、小規模建築物の適用除外の条件を確認します。
階段が2本あれば必ず基準を満たしますか?
必ずではありません。各階から使えること、各居室からの歩行距離、2つの階段へ至る経路の共通部分、階段の区画・構造などを確認します。
宿泊室面積が100㎡ちょうどなら2本必要ですか?
施行令121条1項5号の面積条件は、宿泊室面積の合計が100㎡を超える場合です。ただし、面積以外の条件や自治体条例で2以上の直通階段が必要になる可能性があるため、100㎡ちょうどという数字だけで結論を出さないでください。
避難階段と直通階段は同じですか?
同じではありません。直通階段は避難階又は地上まで連続して通じる階段です。避難階段・特別避難階段は、その直通階段に区画や防火設備等の追加構造を求めるものです。
らせん階段でも直通階段にできますか?
条件によります。全国一律禁止ではありませんが、踏面・幅、直通性、所在地の条例を確認します。東京都では特殊建築物の直通階段をらせん階段にすることを原則禁止し、限定的な例外を設けています。
まとめ|本数だけでなく避難経路全体を確認する
旅館・ホテル・簡易宿所では、その階の宿泊室面積が100㎡を超える場合、原則として2以上の直通階段が必要です。主要構造部が準耐火構造又は不燃材料の場合は200㎡へ読み替える規定があります。
ただし、階数、別の用途・面積条件、小規模建築物の適用除外、歩行距離、共通の重複区間、避難階段、自治体条例があるため、面積と本数だけで最終判断はできません。工事発注前に、建築士が図面と現況を確認してください。
参考にした一次情報
著者


行政書士 渡邊 雄一郎
トライアド行政書士事務所代表。法科大学院修了・法務博士・行政書士。民泊専門サービス「民泊GO」を運営し、住宅宿泊事業の届出、旅館業許可、特区民泊を中心に、消防・建築・近隣対応まで含めた民泊の立ち上げ支援を行っています。

