民泊・旅館業の事業譲渡契約|許認可・営業切替で確認する条件

民泊・旅館業の事業譲渡契約|許認可・営業切替で確認する条件

調査で消防設備の不足が見つかりました。買うのをやめるほどではないのですが、契約書にはどう書けばよいのでしょうか。

お客様

行政書士

不足の内容、是正の担当・期限・費用負担を整理し、弁護士と契約条件を検討します。まだ分からない費用や日程があれば、未確認と明示して、その確認方法も相談してください。

許認可の不備や不明点は、是正・費用・営業切替の条件として契約担当へ渡します。調査で分かった事実と、未確認の事項を分けるところから始めます。

まずは未解決事項ごとに、確認資料・希望する対応・期限を一覧にしてください。事実がすべて確定していなくても、追加確認や条件未達時の扱いを弁護士と検討できます。

この記事は、許認可と営業切替の観点から、契約担当へ渡す材料を整理します。個別の条項・責任分担は弁護士へ相談し、ひな形の配布や株式譲渡契約全般、税務、価格査定は扱いません。

契約で最初に明確にしたい対象と権限は?

譲渡の対象があいまいなまま条件を詰めると、後で「この設備は含まれていたのか」「この契約は引き継ぐのか」という食い違いが出ます。最初に、対象と当事者の権限を紙の上で特定します。

誰が、どの事業・設備・契約を譲るのか

宿泊事業の譲渡は、建物と鍵を渡せば終わりではありません。営業に使っている設備、リネンや備品、システムの契約、清掃や管理の委託契約まで、引き継ぐものと引き継がないものを分けて書き出します。

旅館業の承継承認の制度では、一つの許可に係る事業の一部だけを譲る場合は承継の対象外とされています(厚生労働省の事業者向けリーフレット。譲渡人と譲受人が承認を受けて営業者の地位を承継する制度の説明)。許可がどの範囲の事業に出ているかと、契約で譲る範囲が一致しているかを照合してください。

  • 営業に使う建物・部屋・共用部の範囲
  • 消防設備、鍵・入退室の仕組み、家具備品
  • 予約サイト・管理システム・清掃や管理委託の契約
  • 従業員や協力先との関係をどう扱うか
  • 引き継がないもの(売主に残すもの)の一覧

本人・法人・代表権・物件使用権限を確認する

署名する相手と、事業を譲る権限を確認します。法人の登記事項証明書は商号・所在地・代表者等を確認する資料ですが、それだけで当該取引に必要な権限・手続をすべて確認できるわけではありません。本人・代理権の確認に加え、必要な社内決議や同意の有無も、契約を担当する弁護士と確認してください。

物件を借りて営業している場合は、賃貸借契約に転貸や事業譲渡に関する定めがあるかを見ます。所有者の承諾が要るのに得られていなければ、契約の前提が崩れます。所有権・賃借権・使用の実態が誰にあるのかを、書面で押さえてください。

賃貸物件で民泊を行う際の所有者承諾と転貸の確認は、こちらも参考になります。

要注意

許可証や届出番号の写しだけでは、現在の建物と運営が基準に合っているかまでは確認できません。許可・届出の存在確認と、現況の調査は分けて考えます。

許認可の不備や不明点をどの条件につなぐ?

調査報告書を受け取った後は、どの指摘を取引条件に反映するかを検討します。事実を条件へつなぐための材料を準備します。

調査結果と未解決事項を契約担当へ渡す

調査結果は、確認できた事項、確認できなかった事項、別の専門家の判断が必要な事項に分けて書き出します。未確認の内容を、問題がないと確認できた内容と混同しないことが重要です。

当事務所の経験でも、許可・届出済みと説明された宿泊施設の取得後に、消防設備と必要な手続の不足が判明し、追加対応と費用負担が問題になった例があります。許可・届出の存在だけで現況の適合を判断せず、判明した不備と未確認事項を一覧にしてください。

物件そのものの調査項目については、建築・消防・都市計画・使用権限まで含めた見方を別記事で整理しています。何を調べるかから詰めたい方はこちらをご覧ください。

次の表は、契約担当へ渡す準備資料の例です。合意済みの条件と検討中の希望を区別し、資料がない項目には「未確認」と記載します。完成した契約条項や、すべての取引で必要な条件の一覧ではありません。

合意したい論点 前提資料・未確認点 担当・期限の確認
消防設備等の是正と費用負担 調査指摘、必要な追加確認、工事範囲・見積りの有無 調査・工事の手配者、負担者、完了確認日
承継承認と譲渡実行 所管への相談結果、申請資料の不足、未確定の日程 申請担当、効力発生日、承認が遅れた場合の調整
物件の使用権限 賃貸借契約、所有者の承諾状況 承諾を得る者、必要な時期、得られない場合の扱い
引渡しと残る作業 資料・鍵・予約等の一覧、引き継げる範囲、未完了事項 引渡し担当、精算日、譲渡後の協力範囲

追加調査・是正工事の担当と費用負担を決める

不足が見つかったときに決めるのは、直すかどうかだけではありません。誰が手配し、いつまでに終え、費用をどちらが持ち、終わったことをどう確認するかまでを一組で決めます。

  • 追加で調べる事項と、その担当(売主・買主・専門家)
  • 是正の設計・工事を手配する者と支払う者
  • 完了の確認方法と、確認できないときの扱い
  • 引渡しまでに終わらない場合の期限と取り決め

費用が未確定の段階では、概算の前提と、見積りを確定するための追加確認を分けます。調査・是正設計・工事・再確認のどこまでが含まれるかは、各依頼先の委託条件によって異なります。民泊GOの許認可DDでは、是正設計・工事・再調査は調査料金に含まれず、別見積です。

承認・届出と契約・決済日をどう合わせる?

許認可の手続には行政側の工程があり、当事者の希望だけで日程は決まりません。契約締結、譲渡の効力発生、決済、営業切替の意味と条件を分けて考えます。

契約締結日と譲渡実行条件を区別する

旅館業の承継承認では、譲渡の効力発生前に承認を受ける必要があります。承認前に効力が発生すると、この承継制度を利用できず、新規の許可が必要です。申請には将来の譲渡を示す契約書等を添付するため、承認前の契約締結が一律に禁止されているわけではありません(前掲の厚労省リーフレット)。重要なのは、契約締結と譲渡の効力発生を区別し、承認前に効力が発生しない条件にすることです。必ず別の暦日にするという意味ではありません。

以下は、所管へ事前相談したうえで進める旅館業の事業譲渡の流れの例です。決済・引渡しの具体的な順序と時期は、契約や融資の条件に合わせて調整します。

契約締結

対象・条件・担当・期限を合意し、承認前に譲渡の効力が発生しないよう設計する。

承継承認の申請

必要な資料をそろえて申請し、所管の確認に対応する。

承継承認の確認

承認の見込みではなく、実際に承認を受けたことを確認する。

譲渡実行・決済・営業切替

前提条件を確認し、合意した日程で譲渡を実行する。決済・資料等の引渡し・営業切替を調整する。

住宅宿泊事業では、事業者が別の主体に変わる場合、旧事業者の廃業届と新事業者の新規届出が必要です(住宅宿泊事業法施行要領)。上の承継承認の流れをそのまま当てはめず、届出と営業日数の確認を別途行います。

旅館業の承継申請で必要な書類や進め方はこちらで扱っています。譲渡予定日から逆算したい場合の参考になります。

遅延・不成立時の決済、融資、費用を確認する

行政の手続が想定より延びることや、資料の不足で追加対応が生じることはあります。そこで、実行の前提条件が期日までに満たされなかったときにどうするかを、あらかじめ話し合っておきます。

  • 手続が完了しない場合の期日の延長と、その限度
  • 手付金・預り金や既に支出した費用の扱い
  • 融資の実行時期と、実行条件との前後関係
  • 実行までの間、施設の維持・保険・営業をどちらが担うか

住宅宿泊事業では、旧事業者の宿泊日数が同じ住宅の当該期間に通算されます。12月の取得時に180日の枠を使い切っていた例もあるため、新規届出だけで日数が戻る前提にしないでください。営業日数と届出切替の確認はこちらで扱っています。

仲介会社がいる場合と知人間では、誰が工程を管理する?

工程の管理者が決まっていないと、資料収集や日程調整が抜けるおそれがあります。仲介の有無にかかわらず、担当を明示します。

仲介の支援範囲・報酬発生条件・専門家の担当

中小企業庁が案内する中小M&Aガイドライン(第3版)では、提供する業務の内容や手数料の説明、利益相反、最終契約が履行されない場合のリスクなどが取り上げられています(中小企業庁のガイドライン案内ページ)。仲介を利用している場合は、契約書と見積書で、支援の範囲と報酬が発生する条件を確認してください。

仲介が関与していることだけで、許認可の調査済み・未実施を判断しないでください。委託範囲と受け取った確認結果を照合し、分からない部分は依頼先へ確認します。確認時点・根拠資料・その後の変更を見て有効な部分を活用し、不足する部分を追加で頼む形も取れます。

依頼済みの範囲をどう点検するかは、こちらで整理しています。

仲介なしでも資料収集・日程調整の担当を置く

知人間や当事者だけの取引でも、必要な許認可の確認は省略できません。資料を集める人、行政に確認する人、日程を管理する人を決め、双方が相手の動きを待つ状態を避けます。

ワンポイント

準備表の担当や期限が空欄なら、「未定」と明示して次に決める人を置きます。当事者の希望を合意済みの条件として扱わず、契約担当と相手方の確認を経て更新してください。

引渡し時に何を渡し、誰が運営を引き受ける?

引渡しは物理的な鍵の受け渡しだけでは終わりません。営業を続けるために必要な書類と情報が、そろって移ることが重要です。

副本・契約・鍵・予約・精算と引渡し記録

厚生労働省の制度案内でも、図面、申請時の書類控え、変更届の控えを引き継いで適切に管理する必要があるとされ、衛生管理の責任は譲受人にあることが示されています(厚生労働省の旅館業法改正に関する案内)。何をいつ受け取ったかを記録に残し、欠けている資料は欠けていると書き留めてください。

  • 許可・届出の関係書類、図面、過去の変更届の控え
  • 消防・建築に関する記録、点検や工事の履歴
  • 賃貸借・管理委託・清掃・システムなどの契約書
  • 鍵と入退室の権限、予約サイトの規約上引き継げる管理権限
  • 受領済み予約と前受金の精算、宿泊者への案内の切替

予約サイトのアカウントや予約情報は、当然にそのまま引き継げるとは限りません。各サービスの規約・必要な手続と、宿泊者情報を扱う権限・目的・範囲を確認して、引渡し方法を決めます。

建物の使用や管理の体制が変わる場合、消防への届出が必要になることがあります。東京消防庁は、防火対象物使用開始届を実際に使用する者が提出するものとして案内し、テナントの入替などを例に挙げています(東京消防庁の案内)。所有者や運営者が代われば常に同じ届出になるとは限らないため、管轄の消防署に確認する担当を決めておきます。

未完了手続・是正・事後調査への協力

旅館業では、改正法の附則により、当分の間、承継の日から6か月以内に少なくとも1回、行政が業務の状況を調査します。起点は、承認を受けて譲渡の効力が発生した日です(厚生労働省の通知・FAQ)。報告を求めるほか必要に応じて現地調査等を行う仕組みであり、全国一律の現地検査申請を意味するものではありません(厚生労働省・2023年8月3日通知)。

そのため、売主が引渡し後も一定期間、資料の提供や事実確認に協力する取り決めがあると、譲受人は対応しやすくなります。誰に、どの期間、何を依頼できるのかを具体的に決めて、契約担当へ伝えてください。

行政書士と弁護士へ、何を相談する?

相談先を分けて考えると、必要な費用と時間の見通しが立てやすくなります。

許認可調査・行政手続と契約判断の役割

当事務所の行政書士は、営業に関する許認可の調査、所管への協議、申請書類の準備を担当します。契約条件の判断・作成はパートナーの弁護士と連携し、責任分担の交渉や紛争への対応も弁護士へ相談します。許認可調査の依頼に、条項の作成や交渉が当然に含まれるわけではありません。

調査だけの依頼、申請だけの依頼、売主側の事前整理、弁護士との連携のいずれにも対応できます。どこまでを誰に頼むかは、案件の状況を伺ってから決めます。

個別事情を伝え、受任範囲と担当当事者を決める

相談の際は、対象施設がどの制度で営業しているか、譲渡の予定時期、すでに依頼している専門家、手元にある資料を教えてください。資料はお手元にあるもので構いません。そろっていない状態でも、何を集めるべきかから整理できます。

未確認事項が残っていても、追加調査を行う条件や、想定と異なる結果が出た場合の対応を契約で検討できます。確認済みの事実と仮定を分け、調査担当と弁護士、当事者の間で期限・費用負担・実行条件を調整してください。

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