民泊を会社ごと売ると届出はどうなる?株式譲渡・法人化の注意点

民泊を会社ごと売ると届出はどうなる?株式譲渡・法人化の注意点

民泊をやっている会社の株式を、そのまま買いたいと言われました。会社ごと売れば、届出はやり直さなくてよいのでしょうか。

お客様

行政書士

営業する法人が変わらないのであれば、別の事業者への切り替えとは扱いが異なります。ただし「何も手続がいらない」という意味ではありません。届出事項の変更や管理体制の前提が動いていないかを、取引前に確認します。

同じ法人の株式・持分を譲る場合、住宅宿泊事業の届出主体は変わりません。ただし、役員などが変われば変更届の確認が必要です。

一方、個人から法人へ移す場合や、別の事業者へ事業を譲る場合は、旧事業者の廃業届と新事業者の新規届出が必要です。まずは現在の届出名義と、取引後に営業する主体を並べて確認してください。

この記事では、現状維持・個人から法人への移行・同一法人の株式等の譲渡・別主体への事業譲渡を、届出と管理体制の観点から比較します。法人化の税務上の損得までは結論にしません。

会社ごと売る場合と、民泊事業を譲る場合は何が違う?

最初に見るのは、取引の対象が「会社」なのか「事業」なのかという点です。同じ「民泊を売る」という言葉でも、届出の扱いは別々に考えます。

以下は住宅宿泊事業の比較です。旅館業の許可承継とは分けて考えてください。

選択肢 届出主体 先に確認すること
現在の主体のまま続ける 変わらない 届出内容・管理体制・現行規制への対応
個人から法人へ営業を移す 変わる 旧事業者の廃業届と法人の新規届出、使用権限・管理体制
同一法人の株式・持分を譲る 変わらない 役員等の変更届、契約の支配権変更条項、会社に残る債務
別の主体へ事業を譲る 変わる 旧事業者の廃業届と新事業者の新規届出、切替日と引継ぎ条件

営業する法人が同じか、別の事業者に変わるか

住宅宿泊事業法の施行要領(ガイドライン)では、事業者が別の主体に変わる場合、届出事項の変更届ではなく、旧事業者の廃業届と新事業者の新規届出によって処理すると整理されています(住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)。現行版は観光庁の関連法令・様式のページで確認できます)。

つまり、届出は「番号を売買して引き継ぐもの」ではありません。新規届出になれば、その時点の条例や設備の要件に照らして、あらためて準備することになります。

株式・持分の譲渡と事業譲渡を区別する

株式譲渡では、対象会社の法人格は変わりません。株主が入れ替わっても、契約や許認可を持っている法人は同じままです。事業そのものを別の会社や個人へ移す事業譲渡とは、この点で異なります(役割や進め方の一般的な整理は中小企業庁の中小M&Aガイドラインが参考になります)。合同会社などでは、株式ではなく持分の譲渡として整理します。

届出主体が同じ法人のままであれば、別主体への切り替えには当たらないというのが基本的な考え方です。ただしこれは制度の組み合わせから導かれる整理であり、個別の届出がそのまま維持されること、従前の基準がそのまま適用され続けることを保証するものではありません。実際の物件と届出内容に照らして、所管への確認を前提にしてください。

個人の民泊を法人へ移すときは何を確認する?

将来の売却に備えて法人化する場合も、法人を作ることと、民泊の営業を法人に移すことは別の作業です。

法人設立と新規届出は別の手続

個人事業者から、その方が設立した法人へ移す場合も、事業者としては別の主体になります。したがって、旧事業者の廃業届と法人による新規届出が必要です(自治体の手続案内でも明示されています。神戸市・新規の届出が必要な場合)。登記が済んだだけでは、営業を移したことにはなりません。

移す時点の条例・使用権限・周知・営業日数

新規届出として扱われる以上、確認するのは「移す時点」の条件です。次の点を、いまの届出内容と突き合わせます。

  • 実施期間や区域を制限する条例が、その後に改正されていないか
  • 建物の所有者の承諾、賃貸借・転貸の条件、管理規約が法人名義の営業を許すか
  • 近隣への周知や標識など、届出に伴う対応を法人としてやり直す必要があるか
  • 同じ届出住宅で、当年度にすでに宿泊させた日数がどれだけあるか

事業者が変わっても、同じ届出住宅の当該期間の宿泊日数は通算されます。この期間は毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までです。届出のし直しで180日の枠が戻るわけではありません(住宅宿泊事業法施行要領)。

現場の経験談

12月に譲り受けた住宅で、旧事業者が当該期間の180日を使い切っていたため、新たな届出後もその期間内は宿泊者を受け入れられなかった例があります。残日数は、取得前に旧事業者の実績と照合する必要があります。

営業日数の数え方と、残枠を取引条件に反映する確認手順はこちらで整理しています。

同じ法人が残れば、何も変更しなくてよい?

株式・持分の譲渡で法人が存続する場合でも、確認せずに済ませてよいわけではありません。会社の中身は取引によって動きます。

役員等の変更、管理体制、物件契約を確認する

住宅宿泊事業の届出には、商号・名称・住所や法人の役員に関する事項が含まれます。これらを変更したときは原則として変更日から30日以内、管理委託に関する所定の事項を変更する場合はあらかじめ、変更の届出が必要です(住宅宿泊事業法第3条第4項)。株式が動くことと、役員が交代することは別の事象なので、どちらが起きるかを取引の設計段階で切り分けます。

管理体制も、譲渡後の姿で見直します。法人だから従業員が常駐していれば管理委託が不要になる、という関係ではありません。事業者自身が住宅宿泊管理業者の登録を持ち、自ら管理する場合には委託が不要となる分岐があります(観光庁・住宅宿泊管理業務の委託観光庁FAQ)。個人時代の居住状況を前提にした整理を、そのまま法人へ持ち込まないようにします。

管理業者へ委託する条件と、家主居住型の考え方は、以下の記事で整理しています。

規制改正の適用と営業主体の同一性は別問題

「法人を残せば、届出当時の条件が将来も続く」とは考えないでください。営業主体が同じであることと、条例改正や経過措置がどう適用されるかは、別の問題です。改正の施行日、既存の届出住宅の扱い、経過措置の有無は、案件ごとに所管へ確認します。法人形態を選ぶことで規制を避けられる、という前提での設計は避けます。

売却に備える法人化で、先に比較したいことは?

法人化は、将来の売却を楽にする場合もあれば、手間と負担が増えるだけの場合もあります。一律にお勧めはしていません。

手続・管理体制・会社維持の負担

法人へ移す時点で新規届出を行い、管理体制を組み直し、会社を維持していく作業が発生します。売却が具体化していない段階でこれらを先行させると、営業を止める期間や、条例の再確認が必要になることもあります。

会社に残る債務と、買主個人の責任を分ける

株式・持分を譲渡しても、会社の借入などの債務や契約は同じ法人に残ります。買主個人が当然にその債務を引き受けるわけではありませんが、会社の財務状態や契約条件は、株式等の価値と譲渡後の経営に影響します。

会社の賃貸借契約に支配権変更の承諾・解除条項がないか、経営者個人の保証をどう扱うかも確認事項です。個人保証は株式譲渡だけで当然に解除・交代するものではなく、金融機関等との調整を別途確認します(中小M&Aガイドライン)。売主側も、自社の契約と未解決事項を整理しておきます。

売却目前なら、今の資料整備を優先する選択もある

すでに買主候補がいる段階では、法人化を挟むより、いまの主体のまま資料を整える方が現実的なこともあります。届出書の控え、図面、変更届の控え、管理委託契約、使用権限の資料、日別の宿泊実績。これらが揃っているかどうかで、相手方の調査に要する時間は変わります。

ワンポイント

迷ったときは、「いま営業しているのは誰か」「売る予定のものは会社か事業か」「決済の予定時期はいつか」の三つを紙に書き出してから相談すると、必要な手続の範囲がはっきりします。

実行前に誰へ何を相談する?

会社の売買と許認可は、担当する専門家が分かれます。どこまでを誰に頼んでいるかを、早い段階ではっきりさせておくと手戻りが減ります。

許認可・株式等の契約・登記・税務の担当を分ける

  • 届出・許認可の要件や必要資料の確認、所管との協議は行政書士
  • 株式譲渡契約や事業譲渡契約の条項、責任分担の判断は弁護士
  • 会社の設立や役員変更の登記は司法書士
  • 課税関係は税理士。有利不利をこの記事では結論にしません

すでに仲介会社や他の専門家へ依頼している場合は、実際の委託範囲と確認結果を照らし合わせます。申請には必要な範囲の確認が伴いますが、購入判断のために建築・消防・使用権限まで横断して調べる調査が、自動的に含まれるわけではありません。既存の調査は、確認時点・根拠資料・その後の変更を確認して有効な部分を活用し、不足を補います。

取得後に消防設備と必要な手続の不足が判明し、追加対応と費用負担が問題になった例もあります。物件側の確認事項と、この事例の詳しい注意点は別記事で扱っています。

現在の主体と将来の取引方式を伝える

相談の入口では、いまの届出が個人名義か法人名義か、想定している取引が株式・持分の譲渡か事業譲渡か、この二点を伝えていただくと話が早く進みます。資料はお手元にある範囲で構いません。売主側の事前整理として、届出内容と物件の状態を確認しておけば、買主の調査に落ち着いて対応できます。

将来の売却を見据えて、いまの主体のままでよいのか、法人へ移すべきかを含めて整理したい方は、許認可の観点からの調査をご相談ください。

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