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行政書士
結論から申し上げると、「管理組合の個別許可」という一つの手続が、すべての制度・すべてのマンションで全国一律に必要になるわけではありません。まず確認するのは、管理規約、使用細則、総会・理事会の議事録です。そこに内部手続が定められていれば、その定めに従います。
そのうえで、次の三つを別の書類として分けて考えます。住宅宿泊事業で規約に定めがない場合に示す「管理組合が事業を禁止する意思を持たないことの確認」、管理組合による個別の承諾、そして旅館業や特区民泊で自治体が求める利用許諾等です。目的も、確認する相手も、そろえる資料も違います。
本記事は、ご自身の案件が「規約の確認だけで足りるのか」「規約に定められた理事会・総会の手続があるのか」「行政へ出す追加書類が必要か」を切り分け、管理組合へ示す資料を準備できる状態を目指して整理します。
管理組合の「許可」は全国一律の一つの手続ではない

「管理組合の許可」という言葉は、実務では複数の異なるものを指して使われています。ここを分けないまま管理組合へ相談すると、話がかみ合わないまま時間が過ぎます。
一つ目は、そのマンションの規約や使用細則が定めている内部手続です。所定の様式による事前の申請、理事会への事前協議、総会決議など、建物ごとに定め方が違います。
二つ目は、住宅宿泊事業の届出で、規約に定めがない場合に管理組合の意思を確認して示す書類です。
三つ目は、旅館業の許可や特区民泊の認定の場面で、自治体が権原の裏づけとして求める利用許諾等の書類です。権原とは、その住戸を宿泊事業に使える立場にあること、たとえば所有者や賃貸人から使用の承諾を得ている状態を指します。求める範囲や様式は自治体ごとに異なります。
三つの違いは、後段の比較表で目的と確認相手ごとに整理します。
まず管理規約・使用細則・議事録を確認する
管理規約は、区分所有者が定める建物内部のルールです。建物の区分所有等に関する法律により、購入した区分所有者や、使用方法については賃借人等の占有者にも効力が及ぶため、所有者の承諾や行政上の手続とは別に確認します。
管理組合へ相談する前に、手元の書面を先に読みます。相談の場で聞くべきことが具体的になり、やり取りの往復が減ります。
集める資料は、最新の管理規約、使用細則、直近の総会・理事会議事録です。あわせて、管理組合や管理会社が用意している案内文書や申請書式の有無も確認します。宿泊事業に関する所定の様式が用意されている建物では、その様式に沿った手続が内部手続そのものになります。
規約は改正されている場合があります。販売資料や購入時の書類に綴じられた版ではなく、現行版かどうかを照合する工程が必要です。総会で方針が示されている場合、規約本文に書かれていなくても、議事録に運用方針が残っていることがあります。
読むときは、一文だけを取り出して結論を出さないことが前提です。「専ら住宅として使用する」という条項があるからといって、それだけで住宅宿泊事業、旅館業又は特区民泊の可否を断定することはできません。
国土交通省のマンション標準管理規約には、宿泊事業を許容する規定例と禁止する規定例が示されています。ただし標準管理規約はひな型であり、そのマンションの現行規約そのものではありません。令和7年改正版(単棟型)を参照する場合も、手元の規約の実際の文言と読み比べる前提になります。
規約に記載がない場合に、管理組合へ何を確認し、どの資料の形で行政へ示すかは、次の記事で詳しく扱っています。
個別許可、禁止意思なしの確認、行政提出書類の違い
三つの書類は目的が違う
三つの書類は、名前が似ていても目的が違います。どれが必要かは、選ぶ制度、規約の定め、所在地の自治体によって変わります。
| 区分 | 何のための確認か | 確認する相手 | 資料の例 |
|---|---|---|---|
| 規約による内部手続 | 建物内部の規律に沿って進めるため | 管理組合、理事会、管理会社 | 管理規約、使用細則、議事録、所定の申請様式 |
| 住宅宿泊事業の禁止意思の確認 | 規約に定めがない場合に届出書類として示すため | 管理組合、届出先の自治体 | 規約の写し、対象時期以降の議事録、誓約書等 |
| 自治体が求める利用許諾等 | 旅館業・特区民泊で権原等を示すため | 所在地の自治体の担当窓口 | 自治体の手引き・要綱で指定された書類 |
住宅宿泊事業の届出で必要となる書類の全国共通部分は、観光庁の届出の際の添付書類に整理されています。判断に迷いやすい論点はよくあるご質問もあわせて確認してください。
ここで注意していただきたいのは、規約に定めがない場合の確認は、管理組合が「事業を禁止する意思を持っていないこと」を示すものだという点です。管理組合がその案件を審査して認めた、という意味の書類とは別に考えます。逆に、管理組合から承諾書を得たとしても、それによって行政手続の要件が満たされるわけでも、規約上の制限がなくなるわけでもありません。
追加資料を採用した個別事例
当事務所で扱った案件でも、この違いが論点になったことがあります。分譲マンションの一室で住宅宿泊事業を計画され、管理規約に宿泊事業の記載がない状態でのご相談でした。自治体名と対応時期は非公開ですが、届出窓口と個別に確認したうえで追加資料を採用した案件であり、全国共通の添付要件を示す事例ではありません。
よくある判断は、「管理組合から承諾書をもらえば、行政の書類もそれで足りる」という整理です。見落としやすいのは、管理組合へ求める書類と届出先へ出す書類が別の目的を持つ点で、どちらか一方の準備だけが進みます。
この案件では、規約の文言と届出先の窓口の両方を確認したうえで進めました。管理組合が承諾書の形式で対応できる状態にあり、窓口ともその資料で確認が取れたため、承諾書を作成いただいて行政へ提出しています。
規約と窓口の確認を後回しにすると、管理組合へ再度の相談が必要になり、内部手続の日程に合わせて申請準備を待つことになります。回避方法は、管理組合へ相談する前に、規約の定めと届出先が求める資料を分けて把握しておくことです。物件の契約前か、遅くとも申請準備に入る前が、この整理に適した時期です。
ただし、これは個別案件での進め方です。同じ書類が全国で必要になるとも、同じ形で用意できるとも限りません。ご自身の案件では、規約の定めと届出先の窓口の両方で確認します。
住宅宿泊事業・旅館業・特区民泊で確認先が変わる
「民泊」という言葉で一括りにされがちですが、制度が変われば、管理規約まわりの確認の方向も変わります。同じ住戸でも、住宅宿泊事業の届出で足りた資料が、旅館業の許可でそのまま通用するとは限りません。
| 制度 | 行政上の位置づけ | 管理組合まわりの確認の方向 |
|---|---|---|
| 住宅宿泊事業 | 届出 | 規約の写しを確認し、定めがない場合は禁止する意思がないことを示す書類を検討 |
| 旅館業 | 許可 | 所有者・管理組合の利用許諾等を求める自治体があるため、所在地の手引きで確認 |
| 特区民泊 | 認定 | 認定を行う自治体の要綱・様式に沿って確認 |
旅館業と特区民泊は、自治体ごとの運用や様式の差が大きい分野です。東京都保健医療局の旅館業のてびきや新宿区の旅館の申請(届出)手続きには、所有者や管理組合の利用許諾等に関する記載があります。大田区の旅館業や特区民泊の手続きも、自治体独自の運用を確認できる例です。
いずれも、その自治体の実務例です。準備は、候補物件の所在地の窓口で求められる書類を確認してから進めます。
行政上の許可・届出・認定を受けても、管理規約上の問題が消えるわけではありません。一方で、禁止の対象が住宅宿泊事業だけか、旅館業・特区民泊を含む宿泊事業全般かは、規約の実際の文言、使用細則、決議の経緯によって変わります。制度を変えただけで自動的に回避できるとは考えず、規約の対象範囲を行政要件とは別に確認します。規約解釈をめぐって管理組合等と見解が分かれる場合は、弁護士へ相談します。
管理組合へ相談するときに示す事業・運営資料
運営計画で示す項目
管理組合や理事会が知りたいのは、法制度の解説ではありません。この建物で何が起き、問題が起きたときに誰がどう対応するのか、という運営の中身です。
相談の前に、次の項目を書面へまとめておくと、質問への回答が一度で済みます。資料の整備は、承諾を得るための手段ではありません。ただし、判断材料が不足したまま検討が保留される状態は避けられます。
| 項目 | 示す内容の例 |
|---|---|
| 運営主体 | 事業者名、住宅宿泊管理業者等への委託の有無、責任の所在 |
| 苦情窓口 | 連絡先、受付時間、居住者からの連絡方法 |
| 緊急連絡 | 夜間・休日の連絡体制、現場へ人が向かう場合の対応 |
| 騒音対策 | 館内での注意事項の周知方法、深夜の行動に関する案内 |
| ごみ対策 | 分別と排出の方法、集積所を使わない場合の運び出し方 |
| 本人確認 | 宿泊者名簿の作成、確認の方法と記録の扱い |
| 共用部の利用 | エントランス、エレベーター、駐輪場等の使い方の案内 |
| 鍵・安全 | 鍵の受け渡し方法、共用部の出入りに関する管理 |
| 開業後の報告 | 稼働状況や苦情対応の報告方法、報告の頻度 |
所有者承諾は別に確認する
ここまでは、建物内部の確認です。これとは別に、その住戸を宿泊事業に使える立場かどうかという確認が残ります。
賃借物件や転借物件では、所有者や転貸人からの承諾がその確認にあたります。管理組合の確認と、所有者・転貸人からの承諾は別の手続です。管理組合の確認が済んでも、承諾を得る必要がなくなるわけではありません。
回答・決議・確認内容を記録に残す
口頭のやり取りだけで進めると、後から前提を確認できなくなります。担当する理事は任期で交代し、管理会社の担当者も変わります。
残しておきたいのは、いつ、誰から、どの資料に基づいて、どのような回答があったかです。理事会や総会で扱われた案件であれば、議事録への記載を確認します。管理組合の所定様式で申請した場合は、提出した書面の控えを保管します。
記録の役割は、この経緯を後から再確認できる状態にしておくことです。理事長の確認書や理事会の議事録は、規約の定めそのものを変えるものではありません。規約に禁止規定がある場合は、記録の有無にかかわらず、進め方そのものの判断が必要になります。
行政へ提出した書類の控えも、あわせて保存します。管理組合へ示した資料と行政へ出した資料は目的が違うため、どちらがどの説明に対応するのかが分かる形で整理しておくと、後の照会に対応しやすくなります。
行政書士と弁護士へ相談する境界
管理組合との関係は、途中から法的な争いの色を帯びることがあります。どこまでを行政手続の準備として扱い、どこから弁護士へ相談するかを、先に分けておく必要があります。
| 相談先 | 扱う範囲 |
|---|---|
| 行政書士 | 制度の選定、行政上の届出・許可・認定の必要書類、事実資料と運営計画の整理 |
| 弁護士 | 規約の有効性や解釈をめぐる争い、相手方との条件交渉、差止めや損害賠償の判断 |
民泊GOでは、行政申請、必要書類、事実資料、運営計画と説明資料の整理を扱います。反対意見が出て権利義務の争いになっている案件での説得、条件交渉、和解または同意取付の代理は行いません。こうした対応は連携弁護士へご案内します。
- 居住者や理事から反対意見が出ている
- 規約の解釈で管理組合と見解が分かれている
- すでに使用差止めや損害賠償の話が出ている
いずれかに該当する場合は、書類の整理より先に弁護士へご相談ください。
マンションで宿泊事業を行うときの確認全体の流れは、次の記事で整理しています。
管理組合へ相談する前に、必要な手続と説明資料を分けて整理します
手続の性質ごとに書類を分けておくと、管理組合への相談と行政手続の準備を並行して進められます。反対に、「管理組合の許可」を一つの手続だと考えたまま相談へ向かうと、必要のない書類を求めて時間を使ったり、行政へ出す資料の準備が抜けたりします。
民泊GOのご相談では、次の点が整理された状態になります。
- 計画に適した制度と、その制度で行政へ提出する書類
- 管理規約・使用細則に定められた内部手続の有無
- 管理組合へ示す運営計画と説明資料の項目
- 所在地の自治体へ確認すべき事項
- 行政書士が整理できる範囲と、弁護士へつなぐ範囲
ご相談の時期は、管理組合へ初めて相談する前、遅くとも申請準備に入る前が適しています。お手元にあれば確認がスムーズになる資料は次のとおりです。
- 管理規約と使用細則
- 直近の総会・理事会議事録
- 管理組合や管理会社の案内文書、所定の申請書式(ある場合)
- 計画する制度と運営計画
- 苦情窓口、ごみ、騒音に関する対応方針
- 候補物件の所在地
ご相談で扱うのは、手続の切り分けと必要書類、事実資料の整理です。管理組合や相手方との条件交渉、規約の有効性をめぐる争い、差止めや損害賠償に関する判断は含みません。これらは弁護士の領域として、適切な段階でおつなぎします。
管理組合へ何を求めるべきかは、選ぶ制度、所在地の自治体、規約の実際の文言、所有か賃借かという関係によって変わります。同じ建物内の別の住戸でも、計画が違えば結論が変わることがあります。判断は案件ごとに分けて検討する前提になります。
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著者


行政書士 渡邊 雄一郎
トライアド行政書士事務所代表。法科大学院修了・法務博士・行政書士。民泊専門サービス「民泊GO」を運営し、住宅宿泊事業の届出、旅館業許可、特区民泊を中心に、消防・建築・近隣対応まで含めた民泊の立ち上げ支援を行っています。


